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日々雑感
幸せは日々の雫のような時の中にある。
毎月の、つれづれなるままに……
2011.11.01 Tuesday

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10月22日 音の語らい

 会場から出てくる人たちに、ほほ笑みがある。
涙を浮かべて「ありがとう、来てよかった」と声をかけて下さる方もある。素晴らしい音色に酔いしれたという表情でいらっしゃる。
音楽会を開催できてよかったと思う。
命かがやけ!と銘打って開いたコンサート、世界的なヴァイオリニスト堀米ゆず子さんを迎えるのは7回目になる。
今から25年前、私たち家族は、音楽好きの息子 剛のために身近で生のいい音楽を聴きたいと クラシックコンサートを主催することにした。音楽を通してあたたかな心の交流を願い「音の語らい」と名付けた。まだパソコンなど一般的ではなく案内からプログラム、会場設営から受付まですべてが手作りだ。
受付にはいつも車椅子の剛がいた。
その息子を助けていつも姉の真澄が自然な感じで寄り添っていた。友人たちが快く手伝ってくれた。
  多くの出会いがあった。重度の障害を持ち長い車椅子に身を横たえ身動きもままならないTさん、音楽が始まると次第に顔色が冴え、ついに「おう」とも「ああ」ともいえない声をあげられた。
その声は、身体の中から湧き上がる晴れやかな感激と聞こえた。モーツアルトのフルート四重奏曲、100人の小さな会場、彼の席は一番前、すぐ前にフルーティストのジャン・ミッシェル・タンギーさん、どきっとしたが音楽は見事に彼の感動を包み込み大きな拍手とともに終わった。
  多くの別れがあった。息子は20年前に逝った。Tさんも・・・。
「音の語らい」が75回目を迎えたことは主催者の私たちにとっても
奇跡のように思う。出会った多くの人々に支えられてきたのだ。
そこに音楽があった。
  万感の思いを込めて「命かがやけ!」と節目の「音の語らい」を開催した。息子に縁のあった方、初めての方、久しくお会いしなかった方、若者から老人まで、クラシック好きから初めてのクラシックコンサートという人まで400人近くのご参加だ。
術後の私はドクターストップ、疲れないようにとの指示を守って舞台袖でおとなしく座っていたが、会場の熱い思いが感じられた。
  ゆず子さんの音色はますます冴えて、繊細でいてのびやかな高音部がくると私は身体に震えるような衝撃が走る、神秘的な低音部、初めての人も虜にしてしまうのだ。
一音でも音を極めていきたいというゆず子さん、私は今回のプログラムを楽しみにしていた。最初の音を息を止めて待った。
一曲目はルクレール:第一ヴァイオリンの斉藤杏子さんは堀米ゆず子さんのお弟子さんの中のお一人、第2ヴァイオリンをゆず子さん、師弟のデユエットは見事に通い合い神秘的な音色を奏でた。2曲目はショパン、坂野伊都子さんのピアノに、人々は息をのんだ。素晴らしい夜想曲、幻想即興曲だった。
  私は、ショーソンのポエームを楽しみにしていた。
綾絹を紡ぐようにゆず子さんは音色を紡いでいく。
物悲しい音色が心の襞に染み入るかと思えば、激しくわしづかみにして物語の世界に運んでいくのだ。若くして逝った息子の命の輝きが音色に込められたように聴いてしまった。最終章はもう胸に迫るものがあった。一音一音が静かに語り、震え余韻を残してフィナーレを迎えた。ああずっとこのままこの音色に揺られていたい。
そして、アンサンブルの妙、モシュコフスキーの二つのヴァイオリンのための組曲ト短調が終わった。
アンコールに日本の歌曲が用意された。
「夏の思い出」「赤とんぼ」「この道」「ふるさと」歌声がまあるく広がった。涙しながら歌っている人がいる。聴衆と演奏者がひとつになった。ホールは優しく温かな空気におおわれた。

 

 
 
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