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日々雑感
幸せは日々の雫のような時の中にある。
毎月の、つれづれなるままに……
1970.07.01 Wednesday

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ゆずこ&クラシカルオーケストラ

 乾期、待ちかねていた雨がふりはじめる。
大喜びで雨水を吸いあげる樹木。その初々しさはどうだ。
しぶきを喜び、染みてくる冷たさを喜び、生命を賛歌し、力強く雨を吸い上げていく。
ああ! もう!そんな感覚。
ヴァイオリンの音色が身体の隅々までしみてくるのだ。
音が立ち上がってくる感じ。
「メンデルスゾーンヴァイオリン協奏曲ホ短調作品64」
ヴァイオリンがリードしてあの旋律が奏でられる。物語の始まりだ。
息をのみ待ち構えていた聴衆は大満足で惹きつけられる。
メンデルスゾーン生誕200年記念クラシカル・プレイヤーズ演奏会
  ヴァイオリン堀米ゆず子 指揮有田正弘。
   何度か聴きなれた曲なのに新鮮で今日のは何か違う。
渦潮のようにひろがる喜び。
遠い彼方から届く強いメッセージ。
斬新だ。高音部、音はのびやかに空中を駆ける鮮明に。
中音部、彩絹で紡がれた音色に頬づりし、低音部の語りかけに答える。私は気がつかないうちに涙していた。
ゆずこさんが使用しているヴァイオリンは、ヨゼフ・グァルネリ・デル・ジェス(1741年製)だ。
今日の演奏会ではガット弦に張替え、顎あても当時の時代のものらしい。オーケストラは30人ほど、これがとても絵になる。
ソリストのゆず子さんと共鳴。この日の公演はモーツアルト時代の楽器を使用している。
響きを考えホールの最終列は空席にするという細やかさは指揮者の有田さんのお考えだとか、メンデルスゾーンを間近に、その音楽を丁寧に創りだす情熱がクラシックに疎い私にも届く。
ゆず子さんはもうメンデルスゾーンを魂のところで再現している。
どうしても聴きたい今日のプログラムだった。多忙の4,5,6月 疲労感もありあきらめていたが、夫に励まされ、河内長野を飛び出した。
昼の新幹線に乗り軽く食事を済ませ東京芸術劇場に入る。
それでもすぐとんぼ返りする身、2部のベートーベンはあきらめるつもりなのだ。美しい夕日が会場をくるんでいた。窓を通してオレンジの光、嬉しい前奏曲だ。眩しさも忘れ見とれた。
サントリーホールでのメンデルスゾーンを思い出す。堀米ゆず子フアンだった息子の聴き入っている横顔が浮かんでくる。
「ブラボー」車椅子から背を伸ばして大きな声で感動のメッセージを
送っていた。若者の持つ青い清清しさがあった。
   あの時も、目的はこの曲という思いで東京まで出かけた。
  ホールに入る前に息子の用足しを済ませてというのが、思いのほか時間をとられ 車椅子の息子と介助の夫が入る一瞬前にドアが閉まってしまった。 息子の悲痛な「この曲が目的なんです」という言葉にホールの係員がドアを開き滑り込ませてくれた。静かに、すばやく、夫と息子が到着、ほとんど同時にはじめの音がホールに響き渡ったのだった。    
曲は最終章に入った。満員の聴衆の心地よい興奮と浄化された魂を引き出しフィニッシユ。割れんばかりの拍手。終わらない喝采。「ブラボー」息子のあの声が聞こえた。「燃えてるなあ」「輝いてるなあ」夫とうなずきあった.新しいことへの挑戦、惜しまない努力、愛、喜び。跳び乗った新幹線の中で私の頭の中を渦巻いた言葉だ。

 

 
 
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